温暖化防止と内燃機関の関係は!? カーボンニュートラルのこれまでとこれから【前編】
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ベストカーWeb より
■きっかけはCO2増加がもたらす『地球温暖化』
クルマ好きに「クルマのどんなところが好きか」訊ねてみると、クルマを操ることの楽しさやスピード感などと共にあがるのが「エンジンの音や響き」だろう。
そんなクルマ好きからすると、最近の『カーボンニュートラル』ブームと『内燃機関販売禁止』の動きは気になるところだ。
世界のこれまでの流れとクルマのこれからの変化を、鈴木直也氏が前後編に分けてわかりやすく解説。
文/鈴木直也
写真/TOYOTA、AdobeStock(トビラ写真=acinquantadue@AdobeStock)
ここ1〜2年、急激に高まった「カーボンニュートラル」のブームと、それにともなう「内燃機関販売禁止」の動き。
クルマ好きの目から見ると、どうも事情がよくわからない。
とりあえず、どうしてこういう流れになったのか、そしてクルマは今後どう変わって行くのかについて、なるべくわかりやすく考察してみよう。
そもそものきっかけが「地球温暖化」なのは、最近は小学生でも知っている。
産業革命以降、人類は石炭や石油などの化石燃料をガンガン燃やして経済を発展させてきた。
そのツケとして、増えたCO2がどうやら地球を温暖化させるらしい。
そこに最初に気づいたのは、2021年ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さんをはじめとする科学者たちだ。
眞鍋さんは1960年代の研究でその気候モデルを発見。つまり、CO2増加=地球温暖化というメカニズムはけっこう古くから知られていたわけだ。
ただ、その後「地球温暖化モデル」は長らく忘れられていた。
60〜80年代にかけて、人類(というか主に西側諸国)は公害対策やら石油ショックへの対応やら、もっと身近な問題への対処に追われていた。
そんな時に「このまま行くと100年後に地球の平均気温が2度以上上昇してヤバイことになる」と言われてもねぇ。増え続けるCO2に危機意識を持つには、人類はまだまだ未熟だったのだ。
■世界が温暖化対策に動き出す
その流れが変わったのは、1988年にIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)という組織が作られてからだ。
地球規模の気候変動というものすごく大きなテーマを扱うには、まずは信頼できる科学的根拠や統計データの集約が不可欠。そして、それにお墨付きを与える権威ある機関が必要だ。
もちろん「地球温暖化なんか嘘っぱちだ!」と主張するのも自由だけれど、いい加減なデータをもとにそれを主張しても説得力がない。
賛成するにしても反対するにしても、まずはできるかぎり正確で信頼性の高いデータを叩き台にすべき。
それを提供するのがIPCCの役割だ。
だから、数年に一回「報告書」は出すけれど「政策提言は別のところでやってください」というのがIPCCのスタンス。
データの中立性が疑われないように、政治的な動きを戒めているのがこの組織の特徴といえる。
では、温暖化防止のための政策を考える母体はどこかというと、1994年に発効した「気候変動に関する国連枠組条約」の締結国会議、いわゆるCOP(Conference of the Parties:コップ)だ。
最新のCOPは10月末から英国グラスゴーで開催されるCOP26だが、これは26回目の会議という意味。
新聞やテレビなんかでは何の前置きもなく「コップ26開催」とか報道しているけど、ちゃんと説明するには以上のようなややこしい前置きが必要なのであります。
■早くから温暖化対策に取り組んでいた自動車業界
さて、そのCOPと自動車業界の関係だが、じつは自動車業界は温暖化防止(CO2排出削減)にめちゃめちゃ早くから取り組んでいる。
COPの歴史で最初のエポックは1997年に京都で開催されたCOP3だが、ここではじめて先進国に温室効果ガス排出削減目標を課す京都議定書が採択され、数値目標の明確化や排出権取引制度の整備などが提案された。
以前から環境規制への適合に努力してきた自動車業界だけに、数値目標ができればそれに対応した技術開発を推進するのは当然のこと。
COP3以降、燃費がもっとも重要なクルマの性能指標となり、世界中の自動車メーカーが燃費改善(=CO2削減)に全力を挙げて取り組むことになる。
ちなみに、初代プリウスが97年の12月に発売されたのは、COP3京都会議に間に合わせるべく、計画を無理やり一年以上前倒しした結果だ。
プリウスのキャッチフレーズは「21世紀に間に合いました」だが、実際のところは「COP3に間に合わせました」というのが真相。
トヨタの経営陣(と日本政府首脳)はそのくらいCOP3を重視していて、そこで日本の誇る低燃費ハイブリッドカーをお披露目するのにこだわったのだった。
COP3以降、加盟各国は京都議定書をベースに長期的なCO2削減プログラムを設定する。
クルマ関係ではEUが設定した「2021年までに走行1kmあたりCO2排出量を95g以下に」というCO2排出量規制が有名だが、少なくともクルマ業界においては、漸進的ではあるがバランスのとれた温暖化対策が進められつつあったといっていい。
■アメリカのまさかの『ちゃぶ台返し』
ところが、これをぶち壊したのがアメリカの動きだった。
2001年に就任したブッシュ(ジュニア)大統領は、なんと京都議定書からの離脱を宣言。
途上国が参加しない京都議定書ではアメリカが一方的に経済的損失を被るほか、地球温暖化メカニズムはまだ科学的に不確実性というのがその理由だが、民主党(クリントン政権)が決めた政策を共和党(ブッシュ政権)がひっくり返すのは、アメリカ政治では珍しくない国内事情の反映という見方もある。
このアメリカのちゃぶ台返しに「気候変動に関する国連枠組条約」を主導するEUの指導者たちは大きなショックを受けたと思う。おそらく「二度とそういう勝手なマネはさせない」と心に誓ったはずだ。
アメリカのような大国の政策を国際条約で完全に縛るのは難しい。
しかし、世論あるいは国民感情を動かす教育・広報活動は可能だし、民間企業には金融政策も有効な手段となる。
また、ビジネスに不利だから温暖化防止の枠組を離脱するというのなら、離脱が逆にビジネスに不利となる仕掛けを作っておけばいい。
アメリカの京都議定書離脱から10年以上にわたり、EUはそういう発想で制度設計や世論喚起の作業を着々と積み上げていった。
これが、後に効いてくる……。(後編につづく)
引用元:https://bestcarweb.jp/feature/column/337682
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