AT車は信号待ちで「N」に入れないほうがいい理由と事情
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ベストカーWEb より

「AT車は、信号待ちで、シフトをN(ニュートラル)にしたほうがいい」——そんな話を聞いたことはありませんか? Nのほうが燃費がよくなる、などの理由で推奨する声もありますが、実は、現代のAT車では「N」に入れることは意味がないばかりか、かえってリスクがある行為。AT車は信号待ちで「N」に入れないほうがいい3つの理由についてご紹介します。
文:吉川賢一/アイキャッチ画像:Adobe Stock_あんみつ姫/写真:Adobe Stock、写真AC
Nレンジでの信号待ちはむしろ燃費を悪化させる
エンジン(モーター)の動力を駆動系に伝えるDレンジやRレンジとは違い、選択することでエンジン(モーター)と駆動系が完全に切り離された状態となるNレンジ。
駆動系とエンジン(モーター)が切り離されることで、燃費がよくなると考える人がいるようですが、それは昭和の時代のクルマの話。昨今のクルマには、アイドリング中の燃料消費を低減する「ニュートラルアイドル制御」という、Dレンジでも以前ほど燃料消費をしないシステムが採用されていますが、Nレンジでは、Dレンジと違って燃料カットは入らないため、アイドリング維持の燃料を使ってしまいます。
Dレンジに入れてブレーキを踏んで待機している状態は、トルクコンバーターに負荷がかかるため、燃料カットの制御が搭載されていなかった時代のクルマであれば、Nレンジにいれたほうが燃料消費を抑えられたかもしれませんが、現代のクルマでは、むしろ逆効果なのです。
Nレンジと燃費に関しては、下り坂でNレンジを使うと燃費がよくなるという説もありますが、こちらも同様です。エンジン負荷が低い下り坂を走行中は、Dレンジだと燃料カットの制御が入るので、エンジンは回転を続けていても、ガソリンは消費しないのです。長い下り坂では、フェード現象やベーパーロック現象に陥ることを防ぐため、エンジンブレーキを使用する必要がありますが、Nレンジにいれてしまうとエンジンブレーキが使用できないため、かえって危険な状態に陥ってしまう可能性もあります。
ハイブリッド車では回生充電がされない
さらにハイブリッド車の場合は、Nレンジでは回生充電がされない、というデメリットがあります。ハイブリッド車は減速時に、Dレンジであれば回生ブレーキが働き、バッテリーに電力が充電されますが、Nレンジでは回生ブレーキが利かないため充電がされないのです。停止中も、発電するためエンジンが回転していたとしても、Nレンジではバッテリーに充電がされません。
電力で走行する時間が長いほど燃費は改善しますので、充電が出来ないNレンジで減速すると、燃費が悪くなる要因となってしまいます。
誤発進に繋がるおそれも
信号待ちでNレンジにいれることはまた、誤発進に繋がってしまうおそれもあります。信号待ちでNレンジに入れたあと、Nレンジであることを忘れてアクセルを踏み、クルマが進まないことでNレンジであることに気づき、慌ててDレンジに入れてしまうとクルマは急発進してしまうのです。
昨今は、クルマが急な飛び出しをしそうになった際に、エンジンやモーターなどのパワーシステム出力を抑制することで急発進を防止する「誤発信抑制機能」が搭載されるようになりましたが、装置のついていない古いクルマの場合もありますし、そもそもNレンジにいれる必要性がないため、やはりNレンジでの信号待ちはお薦めできません。
Nレンジは非常事態に使うもの
また、「信号待ちでブレーキペダルを踏み続けると右足が疲れる」というケースに関しても、昨今は、ブレーキペダルから足を離してもブレーキをかけた状態を維持してくれる「オートブレーキホールド」を搭載するクルマが増えていますし、誤発進のリスクがあるNレンジを、わざわざ使わなくてもいいでしょう。
以上のように、Nレンジを信号待ちで使うべき明確な理由は、少なくとも現代のクルマにはありません。ではなぜいまもNレンジが用意されているのかというと、それは非常事態に対応するため。
たとえば、故障などでクルマが自力で動くことができなくなったとき、駆動系から切り離されたNレンジを用意しておくと、レッカー移動ができたり、人力で押したりするなどで、クルマを動かすことができます。また、ドライバーが体調不良などで意識を失い、アクセルペダルが踏みっぱなしになってしまった場合にも、助手席側からNレンジに入れることで、速度が上がっていってしまうのを防ぐことができます。
信号で停止する際はDレンジで待機し、長くなりそうな場合もNレンジではなく、オートブレーキホールドを利用するか、Pレンジを活用するようにしましょう。