車の後ろの「大きな羽」は一体何!? 巨大なリアスポイラー&ウィングにはどんな役割があるのか
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くるまのニュース より
後ろの「羽」を大きくする「必要性」を探る!
かつて多くのスポーツカーの車体後部に付いていた、極端に大きな「リアウイング」(リアスポイラー)。
時速100キロから120キロ程度しか出すことができない公道でどれほどの意味があるのかと、疑問を感じていた方も少なくないでしょう。リアウイングは本当に効果があったのでしょうか。
クルマは高速走行をすると、ボディ上面を流れる空気と、ボディ下面を流れる空気の流れの速度差によって、車体にはクルマを浮き上がらせるリフトフォース(揚力)という力が働きます。
その力は、速度が高まるほどに比例して増加し、高速走行中にハンドルが軽くなったり、些細な横風でも左右に流されやすくなったりと、クルマの挙動へ悪影響を及ぼします。
特に背の高いSUVやミニバンは、床下に多くの空気が入り込みやすく、リフトフォースが大きく働きやすいです。
F1マシンのような、平均車速200キロオーバーで走るレーシングカーの世界では、巨大なリアウイングでわざと空気抵抗を作ることにより、ダウンフォース(車体を地面へ押さえつけ浮き上がりを抑える力)を発生させ、さらに幅の広いタイヤを装備することで接地力を稼ぎ、コーナリングスピードを上げています。
このくらいの速度域ではリアウイングの効果は絶大で、レーシングカーにとってリアウイングは、タイヤの次に重要な要素です。
一方で、国産自動車メーカー操縦安定性部門の設計者は、次のように話します。
「普通乗用車の場合、速度による空気からの影響を減らすため、空力は『ゼロリフト』(車体に浮き上がる力がかからない状態)を狙うのが一般的です。
しかし、レーシングカーのようにダウンフォースを強めすぎると、操縦性は安定しますが走行への抵抗となってしまうため燃費が極端に悪化してしまうのです。
乗用車では燃費改善のための空気抵抗低減を最優先とし、操縦安定性を高めるダウンフォースといかにバランスをとるかに注力しています」
ホンダによれば、レーシングカーのように大きなリアウイングをつけた「シビック タイプR」(FK8型)でも、あくまで「ゼロリフト」を狙っていたそうです。
市販スポーツカーの一例として、少し専門的になりますが、数値で詳しく見てみましょう。
ホンダのスーパースポーツカーである初代「NSX」の揚力係数(CL値)はフロント0.055、リア0.02と公開されています。
細かな計算方法は省きますが、時速60キロで走ると、フロント2.8kg、リア1.0kgのリフトフォースが発生します。
これが時速120キロだと、フロント11kg、リア4.1kgに増えます。
初代NSXは車重1350kg、前後の重量配分42:58ですので、前輪荷重は567kg、後輪荷重は783kgです。
この前後輪荷重に、車速に応じたリフトフォースが付加されると、時速60キロの場合だと、操縦安定性への影響度は0.1~0.5%、時速120キロになると0.5~1.9%になります。
たった数%ですが、前出の設計者によれば、限界速度で走っているなかではこのわずかな違いであっても、コンマ数秒のタイムを競うモータースポーツでは空力性能を追及する意味は十分にあるそうです。
ちなみに、自動車メーカーのテストドライバーは、環境が整ったテストコース内の走行なら、整流板の役割を果たすリアディフューザーの高さを5mmほど変えても、時速60キロ程度で感知するそうです。
ただし一般的なドライバーが公道上で空力の違いを感じ取ることは、基本的に難しいとも話します。
※ ※ ※
リアウイングは、ダウンフォースと共に大量の空気抵抗を発生します。
近年、大きなリアウイングのクルマを見かけなくなったのは、シミュレーション技術の進化によって、床下やボディの形状を工夫することで、リアウイングでなくとも、リフトフォースを低減できることがわかったためです。
ただレーシングカーのようなかっこよさが欲しかった当時のクルマ好きにとっては、操縦安定性を期待させるスタイリングが魅力的に思え、本来の効果はそれほどなくてもよかったのかもしれません。