クルマ酔いは「動揺病」という病気だった!! 薬剤師が語るクルマ酔いのメカニズムと酔い止め薬の役割
口コミを書く
口コミを見る
ベストカーWeb より
学校行事でのバス移動の際、担任の先生が「酔っちゃう人はできるだけ前の席に座ってね!」と言っていた記憶がある。それでも何人かは顔が真っ青になり、結局、ビニール袋に吐いていた。クルマ酔いによる嘔吐で、遠足や修学旅行ではよく見かける光景だった。
乗り物酔いは子供だけでなく、大人もかかるものだが、クルマ酔いはどんなメカニズムで発生しているのだろうか? 普段、薬を調剤しているクルマ好きの薬剤師Jにインタビューする機会を得たので、話を聞いてみた。
文/木下琢哉(Team G)、写真/AdobeStock(トップ写真=metamorworks@AdobeStock)
取材協力/薬剤師J
■クルマ酔いは乗車中のストレスが原因で発病
「一般的に乗り物酔いのことをクルマ酔いや船酔いと呼びますが、正確には『動揺病』と呼ばれる病気です。クルマ酔いが発生する一番の要因は『自律神経の乱れ』が生じた時。乗車中、特に同乗者は様々なストレスを知らず知らずのうちに受けており、ストレスがかかった時に自律神経の乱れが生じます。
第一に目からの視覚情報と体の動きが一致しない時。
人の耳の中には前庭というセンサーがあり、そこで揺れや加速感を感じています。一般的な走る、歩くなどの動作では、視覚情報と体の動きが一致しているため、酔うことはありませんが、クルマや船などではしばしば情報の矛盾が生じてしまい、脳がパニックを起こしてしまうことがあります。
クルマの場合、ドライバーが酔うことはほとんどありません。それは加減速や曲がるタイミングがわかっているので、視覚情報と体の動きが常に一致しているからです。
しかし、助手席や後部座席などに座っている人は自分が運転しているわけではないので、視覚情報と揺れの情報が一致しにくく、酔いやすい傾向にあります。乗車中、車内でスマホや本を読んだら具合が悪くなるのはそれらの情報がまるで一致していないためです」
助手席に乗った時、ドライバーのブレーキングやステアリングの切り始めなどのタイミングと自分の感覚にズレがあると、違和感を覚えることがあるが、知らず知らずストレスになっているとは……。これからは運転者との相性を考えてしまいそうだ。
■車内の不快な臭いもクルマ酔いの原因だった
「第二のストレスが車内環境です。車内はある意味密室で、そのままにしておくと空気が淀んでくるため適度な換気が大切です。エアコンを内気循環で使い続けたら具合が悪くなるのもこれが原因と言えます。
あと臭い。強い芳香剤や食べ物の臭いなど、ドライバーは気にならなくても同乗者にとっては不快な臭いとなり、乗り物酔いの要因となります。適度に車内をキレイにしておくのはもちろんのこと、臭いの強い芳香剤は避けた方が無難です」
取材でいろいろなクルマに乗る機会があるが、「クサッ」と叫びたくなるような独特な臭いを漂わせているクルマは多い。芳香剤の好みは人それぞれだが、少し運転するだけでも不快なのは間違いない。長時間乗っていたらかなりのストレスになるだろう。
■ストレスが吐き気につながるメカニズムと酔い止め薬の関係
「車内でストレスを感じて自律神経が乱れると、嘔吐中枢という吐き気を起こすスイッチに情報が伝達されてしまうのです。その情報伝達に使われる物質がヒスタミン。逆に言えば、嘔吐中枢とヒスタミンが結合しなければ、吐き気を抑えることができます。これが酔い止め薬の仕事ということになります。
一般的に売られている酔い止め薬には、抗ヒスタミンという成分が大抵入っています。これがヒスタミンに似た構造式をしているので、嘔吐中枢のスイッチ部分に蓋をすることができ、未然にヒスタミンの経路を遮断できるという仕組みになります。これが酔い止め薬の一番重要な作用です。
次に自律神経の乱れを抑え、酔いの症状を予防するスコポラミンという成分があります。乗物酔いの症状を緩和する抗ヒスタミン薬成分、自律神経の乱れに作用するスコポラミン。大きな酔い止め効果としては基本的にこの2つの成分が主流となっています。
また、薬を服用した際、眠気や口の渇きなど、本来目的としていない効果が出てしまうことを副作用と言います。薬を飲む際にあらかじめ確認しておく必要があります」
吐き気を催すスイッチをカバーする抗ヒスタミンと、自律神経の乱れをおさえるのがスコポラミン。そのダブル効果で吐き気を予防するのが一般的な酔い止め薬ということだろう。
クルマ酔いが発生する理由と吐き気を催すメカニズム、そして酔い止め薬の役割はわかっていただけただろうか? 乗車中に気持ち悪くなるのも嘔吐するにもれっきとした理由があり、偶然やたまたまというわけではない。