昔教わった「ポンピングブレーキ」意味なし? 意外とできない全力ブレーキの踏み方
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ベストカーWeb より
もっとも重要なのは「正しいシートポジション」
急に前を走るクルマが止まったり、クルマや自転車、歩行者が飛び出してきたなど、全力ブレーキが必要となることは誰にでも起こりえることですが、全力でブレーキを踏むことは日常の運転ではほとんどないためか、多くの人が、いざというとき、全力でブレーキを踏むことができないようです。意外とできない全力ブレーキの踏み方について、振り返っていきましょう。
文:吉川賢一
アイキャッチ写真:Adobe Stock_Konstiantyn Zapylaie
写真:Adobe Stock、写真AC
全力でブレーキを踏むことができない理由としては、シートポジションが正しくない、ということが考えられます。
普段のブレーキでは不足がない前後位置でも、ブレーキを奥まで踏み込むには前後位置が後ろすぎるため、思いっきり踏み込むことができないのです。
全力でブレーキを踏むためには、シートの前後位置を、座面に深めに座った状態でブレーキを奥まで踏み込める位置に合わせること。
フルブレーキング時は、慣性力によって身体が前側へと移動しようとしますので、お尻の後方とブレーキペダルを踏んだ足が突っ張るような位置にすることで、いざというときに全力でブレーキを踏むことができるようになります。
普段シートを後ろへ引いたゆったり姿勢で運転している人は、正しいシートポジションに合わせると、いつもよりもハンドルが近くに感じるはずですが、ハンドルに前後位置調整(テレスコピック)があるクルマならば、ハンドルをしっくりくる位置に調節してみてください。
テレスコピックでの調整で膝がハンドルの下側にぶつかってしまう場合には、シートの上下調節で合わせます。
全力で踏み切れないのには「意識の問題」も
全力でブレーキを踏むのが意外と難しい背景には、「意識の問題」もあります。
燃費のためや、同乗者が酔わない運転として、普段から優しいペダル操作を心掛けていると、いざというときに無意識に躊躇ってしまうそう。
できれば一度全力ブレーキによる急制動は経験しておきたいところなのですが、なかなかそんな機会はありませんよね。
エンジンオフの状態でブレーキを強く踏んでみるなど、普段からそうしたシーンをイメージしておくことも大切ですが、いざというときに躊躇うことなくブレーキを踏むためには、荷物の載せ方も重要。
強くブレーキを踏むと、慣性力によって荷物は前方へと動きます。
一般的な乗用車の場合は、加速よりも制動のほうが強く働きますので、前方の壁にもたれかかるように、荷物は後席シートの上ではなく後席足元(運転席や助手席の背もたれに沿わせて)に置いたり、トランクや荷室の場合は前方の隔壁に付くように乗せておくことで、気にすることなく全力でブレーキを踏み込むことができます。
「荷崩れが気になって、ブレーキを踏みきれなかった」なんてことにならないよう、普段から意識しておきましょう。
全力ブレーキには、それなりの運動能力も必要
そのほかにも、ドライバーの運動能力の問題ということもあります。数年前、とあるテレビ番組で高齢者の運転講習会のようすが報じられていたなかで、急制動の訓練を受けている高齢男性は、停止位置を大きく超えても止まることができていませんでした。
運転訓練ですので、ブレーキを踏み始める位置や目標停止位置は事前に分かっていたはずなのですが、それでもブレーキを踏み切れていないようでした。
その高齢男性がブレーキを踏み切れなかった原因としては、シートベルトをし忘れていたという初歩的な間違いのほか、適切なドライビングポジションが取れていなかったこと、また自分が思っていたよりも踏力が衰えていたことなどがあったようです。
「いざとなったら全力ブレーキぐらいできるでしょ」という思い込みは、悲惨な事故に繋がっていきます。
クルマを安全に運転するには、判断力とともに、とっさのときに対応できる運動能力も必要であることは、忘れないようにしなければなりません。
ちなみに、教習所で習った「ポンピングブレーキ」は、後続車に「ブレーキを踏んでいますよ」と伝えるためのほか、滑りやすい路面で急制動する際にタイヤをロックさせないためのものです。
いまでも、後続車に自車がブレーキを踏んでいることを伝えるという意味では必要ですが、滑りやすい路面での急制動のシーンでは、ABSが当たり前に装備されているいまのクルマでは、ポンピングブレーキは必要ありません。
全力ブレーキに関しては、「いまのクルマは緊急時被害軽減ブレーキがあるし、そこまで必要じゃなくないか!?」というツッコミもあるかと思いますが、より安全にクルマを運転するには、こうした先進技術を活用しつつ、ドライバーの運転技術も磨いていくことが重要。
いざというときの備えとして、ぜひ意識しておいてほしいものです。