勝手に人の顔撮るとかプライバシーの侵害……こんな理屈は「オービス」「Nシステム」に通用しない?
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WEB CARTOP より

オービスとNシステムはプライバシー権侵害にあたるのか?
クルマで走っていると、道路に設置されたカメラを目にすることがある。そのなかには、各都道府県警察が管轄する「速度違反自動取締装置(オービス)」や、各都道府県警察および警察庁が管轄する「自動車ナンバー自動読取装置(Nシステム)」も含まれている。オービスは速度違反を取り締まるための違反車両を撮影する装置であり、Nシステムは通過するすべての車両のナンバーを自動で読み取って記録しているとされている。
芸能人の場合、無断で撮った写真をSNSに投稿するなどの行為は肖像権の侵害にあたる可能性がある。芸能人にとって「顔」は商売道具のひとつであり、それを使用する際には、許可を得たうえで対価を支払う必要がある。無断で使用すればパブリシティ権の侵害として法的に問題となり得るのだ。
一方、一般人には芸能人のような商業的価値はないものの、本人の同意なく写真を撮影・公開した場合にはプライバシー権の侵害と判断されることがある。
そうだとするならば、オービスやNシステムは、ドライバーや同乗者(主に助手席)の顔写真を許可なく撮影していることになる。これは、プライバシー権の侵害にあたるのではないだろうか。
最高裁判決が示すオービスの合法性と3つの条件
とくにオービスの場合、その写真を根拠として速度違反が認定され、反則金や罰金を科されることになる。もし、プライバシー権の侵害が認められれば、「違法な手段による捜査」として違反の成立自体に異議を唱えることも理論上は可能だ。つまり、違反をなかったことにできるかもしれない。
結論からいえば、世のなかはそう甘くはない。もし、そのような主張が本当に通るのであれば、オービスやNシステムはとうの昔に廃止されていたはずだ。むしろ、これらの装置は年々設置箇所が増えているともいわれており、プライバシー権についてどれだけ熱弁をふるったところで、違反が取り消されることはまずない。
オービスに関しては、その取り締まり方法の違法性を訴えた裁判で、すでに最高裁判所の明確な判断が下されている。その判決では憲法に定められた幸福追求権を根拠に、「何人も、本人の承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有する」ことは認められた。しかし、そのうえで、以下の条件が満たされる場合に限り、警察による撮影・記録行為は許容されると判断されたのである。
1)現在において犯罪が進行中の場合
2)緊急に証拠を保全しなければならない場合
3)合理的な方法による撮影の場合
オービスは、上記の条件をクリアしているので違法ではないということになる。今後、この判例が新たな確定判決によって覆されない限り、これが日本における常識として扱われ続けるのだ。
Nシステムが法廷で争点とならない理由
これに対して、Nシステムは少し事情が違ってくる。同システムは素人目から見ても先の3条件(とくに①「現在において犯罪が進行中の場合」と②「緊急に証拠を保全しなければならない場合」)に、すべて当てはまっているとはいえないと考えられる。ところが、これについては明確な裁判所の判断がない。その理由は、警察が「Nシステムで記録しているのは、表示が義務づけられている(秘匿対象の個人情報ではない)ナンバープレートのみ」としており、ナンバープレートの撮影はプライバシー侵害を疑う要件が満たされないからだ。
誰が考えても「そんなわけはないだろう」という話だが、Nシステムの詳細な仕組みが公開されていない以上、それを証拠立てるものもない。そもそも、何もしていない一般ドライバーが、Nシステムに撮影されたことによる実害も証明しにくい。
警察も非常にしたたかで、Nシステムが法廷で争点とならないよう、同システムで記録された映像を裁判の証拠として提出するケースはほとんどない。あくまでも、犯罪捜査のきっかけとして利用されるにとどまっている。
こういった「どこまでがプライバシーなのか」といった問題は、普及が進むドライブレコーダーや私的な防犯カメラ、さらには警察官が装着するボディカメラなどにおいても、同様の課題を抱えることになるだろう。大げさなことをいえば、軍事衛星も同じことだ。
新しい便利な技術が次々と登場する現代において、公共の利益と個人の権利のバランスをどう取るか──それは非常に難しい問題である。