チャイルドシートは前向き? それとも後ろ向き? 規格と実生活における埋まらない溝
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ベストカーWeb より

ここ十数年、チャイルドシートの変革が大きい。2012年7月からはそれまでの国土交通省基準の「自マーク」から、国連欧州基準であるECE R44に安全基準が変わり、2023年には次世代安全基準であるR129へ完全移行した。R44とR129の大きな違いは、乳児期の子どもの乗せ方だ。後ろ向き期間が長く安全性の高いR129なのだが、実際に使ってみると、結構悩みどころの問題が出てきている。
文:佐々木 亘/画像:Adobe Stock(トビラ写真=Tortuga)
チャイルドシートを後ろ向きに付ける必要があるって知ってた?
今から四半世紀前、2000年に義務化されたチャイルドシートの装着。それ以前に乳幼児期の子育てを終えてしまった人には、チャイルドシートは馴染みが薄いと思う。まずは、チャイルドシートの使い方について、簡単に説明していきたい。
道路交通法では6歳未満の乳幼児を乗せる際にチャイルドシートの使用が義務付けられており、これに違反すると運転者に対して違反点数1点が加算される。そしてチャイルドシートの使い方だが、新生児期から一定期間は、進行方向に対して後ろ向きに使用しなければならないのだ。
チャイルドシートの旧基準であるR44と新基準のR129における、使い方での大きな違いは、この後ろ向き期間にある。R44では体重に基づく分類が行われ、子どもの体重が9㎏を超えたら前向きにすることができたが、R129では身長に基づく分類が行われ、子どもの身長が76cmを超えるまでは、後ろ向きのまま使用するのだ。
また、R129では最低15か月までは後ろ向きでなければならないという、後ろ向き乗車の期間についても定められるようになった。
チャイルドシートの後ろ向き使用は、自動車事故の多くで発生する前面衝突時に、チャイルドシートの背もたれ全体で衝撃を受け止め、赤ちゃんへの負担を軽減するための使い方である。ただ、長い間後ろ向きのままで子どもをクルマに乗せられるかというと、そういうわけにもいかないのだ。
窮屈そうだしグズるけどまだ後ろ向きなの?
R129対応のチャイルドシートを使っていると悩ましいのが、後ろ向き使用の期間。
「最低15か月(1歳3ヶ月)までは後ろ向き使用でなければならない」と、強い文言で書かれているからこれは遵守事項なのだが、実際に子どもを乗せていると、1歳を超えたあたりから、前向きで乗せたくなってくるのだ。
かなり大きく生まれた筆者の子は、1歳時点で身長は76cmを超え、体重も10㎏に迫る。周囲のことも良く見えてきて、クルマに乗って窓の外を眺めるのも大好きだ。この状態で、視界の狭い後ろ向き乗車をさせると、かなりのご不満顔。「バスや電車では進行方向と同じ向きなのに、クルマだけはなぜ後ろ向きなのだ!」と、抗議の声も聞こえてくる。
体格的にも、そろそろチャイルドシートから足が出てきており、後ろ向きに取り付けると、シートの背もたれ部分に足が当たりそうだ。窮屈で運転している親とのコミュニケーションの取れない後ろ向き乗車よりも、早く開放的な前向きにしてあげたいと思ってしまうが、15か月までは待たなければなるまい。
ちなみに、現在の我が子の体格は、R44の基準ではとっくに前向き乗車可能となっている状態。R129を使っているから後ろ向きのままなのかと、最新の安全基準を恨めしく思うこともある。
ただ、乳幼児の交通事故死亡率が低いスウェーデンでは、4歳頃まで後ろ向きで乗せるのが当たり前なのだという。こうした事実が分かれば、後ろ向き使用期間が長いことのも納得がいくのだが、なにぶん日本の製品は説明が足りないし、使わせ方が義務的だ。
なぜチャイルドシートが必要なのか、なぜ後ろ向きに乗せるべきなのか、その理由が明らかになり、多くの人に広まれば、大切な我が子のためなのだから、使用方法を守らない人も、チャイルドシートにそもそも乗せないなんて人もいなくなると思う。義務ではなく推奨にしても、全員が正しく使い安全に過ごせる、こうした社会づくりがチャイルドシートの正しい利用には不可欠ではないだろうか。