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ただの「楽な位置」だと思っていないか!? 「ドラポジ」の追求が真の人馬一体に近づく道だ!!
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 良い運転には「ドライビングポジション」が重要だといっても、それは単純に「座り方」さえ気を払っていればいいというワケではない。車両との一体感を得るために考えるべきことはなにか!? 理論派レーシングドライバー中谷明彦氏が「ドラポジ」の深さを語る!

文:中谷明彦/写真:Lamborghini、McLaren、三菱、富士スピードウェイ、ベストカーWeb編集部

ドラポジを極めるとクルマは変わる!?



 ドライビングポジション(以下ドラポジ)の重要性は、今さら言うまでもない。自身が主宰している「中谷塾」でも、また多くのドライビングスクールにおいても、必ず最初に解説されるのはドラポジの基本だ。操作の正確さも、車両との一体感も、その出発点はすべてドラポジに集約される。

 すなわち、ドライバーとクルマとのインターフェースを決定づける根幹である。ただし、ここで多くのドライバーが誤解しているのは、停止状態で「楽だ」と思えるポジションが、そのまま理想のドラポジであると信じてしまうことだ。

 実際には、走り出して加減速や横Gを受け、ステアリングやペダル操作を行うと、身体はシートに押し付けられたり、ステアリングに引き寄せられたり静止状態では想定できない力を受ける。そのとき初めて「少しステアリングが遠い」「シートバックから肩が離れる」などの違和感が現れる。

 だからこそ、走行を開始してから微調整することが不可欠だ。特にサーキットでは、やや窮屈と感じるくらいのポジションが最適となる。高い横Gや減速Gを受け止めるには、身体をしっかり支える環境が欠かせないからだ。

ホールド感×快適性×フィット感!



 ドラポジを最大限に活かすには、シートそのものの質も重要な要素になる。ホールド性、快適性、そしてフィット感。この3つが揃わなければ長時間の走行で集中力を維持することは難しい。

 自身が経験した中で、市販車ベストと感じたのは、ランボルギーニ・ガヤルドSTS(スーパートロフェオストラダーレ)に装着されていたカーボンバケットシートだった。一体式ながら身体が吸い込まれるように馴染み、腰から肩まで無駄なく支持してくれる。

 結果としてステアリング操作も、ペダルワークも極めて精度が高まった。シートが身体を受け止めてくれるからこそ、ドライバーは余計な力を使わず、繊細な入力に集中できるのである。

 シートに加えて重要なのがシートベルトだ。サーキットでは最低でも5点式、できれば6点式以上のハーネスが必須となる。4点式は一見レーシーに映るが、実際には衝突時にバックルが腹部や胸部を圧迫し、内臓損傷のリスクを抱える。

 むしろ市販車の3点式プリテンショナー付きの方が安全性が高い場合もある。

シートだけでなく、拘束システムも進化がほしい



 安全装備において「見た目」や「雰囲気」に惑わされるべきではない。ここで僕が強く疑問を抱くのは、レーシングハーネスの締結方式が半世紀以上変化していないことだ。未だに人力でベルトを引き、金具に通して締め上げる方法が主流である。

 確かに物理的な確実性はあるが、ベルトが血管を圧迫し心拍数を上げ、長時間では疲労を増大させる。そろそろ医療や航空分野の技術を応用した新しい拘束システムが登場してもいいはずだ。身体をソフトに包み込み、均一な圧力で固定できる構造や、伸縮率を制御可能な新素材ベルトなどが望まれる。安全性と快適性を両立する技術は既に存在しており、自動車分野が取り入れない理由はない。

 これまでの体験を振り返れば、フォーミュラカーやGTマシンのドラポジ調整には毎回苦労が伴った。例えばかつて搭乗したマクラーレンF1 GTRでは、車体センターマウントのシングルシーターというレイアウトゆえ膝周りを支えるコンストラクションがない。

 ドライバーはシートだけでなく、モノコックやバルクヘッドなどに膝や肘を当て、振動や高G下に置いてペダルやステアリング操作を正確に行おうとする。そこが省かれてしまうと正確な体制の保持ができない。

人馬一体とは最も身体に適したポジションを探すこと



 また、耐久レースでは複数のドライバーでマシンをシェアする。そうした場合、一人のドライバーだけに合わせる事ができないので、ほぼ全員がドラポジに妥協しなければならなくなる。こうした微妙なズレが、限界域での挙動制御に大きな差を生むのである。

 F3以上のフォーミュラカーには基本的にシートが付いていない。ドライバーがマシンに乗り込み、背中や臀部に発泡剤を注入して専用の発砲シートを作るのだ。この方式も少なくとも40年変わっていない。この発砲シートも、製作時は車両停止状態だから、走行してみないと完成度が分からない。

 一流チームならドライバーが納得するまで何度でもシートを作りかえる。例えばF1では低速のモナコ用と高速のシルバーストーンでは異なるドラポジをプロドライバーが求め、それに対応してくれるものだ。

 こうして身体に完璧に合ったポジションに座ったとき、車両との人馬一体感は高まり、ラップタイムも向上する。

実はこんなに違う!? 国産車と欧州車に見る設計思想



 市販車に目を向けても、国産と欧州車では設計思想に違いが見られる。国産車は米国車由来で比較的誰にでも「楽に」座れるポジションを優先する傾向があり、シートバックが柔らかく、ステアリングのチルトやテレスコ調整幅も限られることが多い。

 一方で欧州車はドライバーが積極的に車を操作することを前提に設計され、ステアリングやペダルの位置関係が論理的で調整幅も広い。結果として、ドライバーは「操縦に集中する姿勢」を自然に取ることができる。こうした設計思想の差が、走行フィールや運転の疲労感に直結するのだ。

 将来を考えると、ドラポジの意味も変わってくる。自動運転が普及すれば、ドライバーは操縦者から「乗員」へと役割を変える。しかし完全自動運転に至るまでの過渡期では、人間が主導権を持ちながらも支援を受けるという状況が続くだろう。

 そのとき、適切なドラポジは依然として安全と快適の鍵となる。誤操作を防ぎ、必要な時に瞬時に制御を取り戻せる姿勢を保証することも、相変わらず今後の車両設計において重要になるはずだ。

ドラポジこそ最も妥協してはいけない!?



 ドラポジとは単なる「座り方」の問題ではない。ステアリング、シート、ペダル、ベルト、それらすべてが連鎖して「人と車の一体感」を形づくるシステムと言える。適切なポジションに身を置けば、ドライバーはより少ない力で、より正確に車を操れる。

 逆に妥協したドラポジでは、どれほど高性能なマシンであっても潜在能力を発揮できない。

 これまで多くのレーシングカーを走らせてきたが、そのたびに痛感するのは、マシンの性能を完全に引き出すのはエンジン出力やタイヤのグリップだけでなく、まずは「ドラポジ」であるという事実だ。ドライバーが機械と一体化できた瞬間、良いマシンは見違えるほど従順に、自在に操れる存在へと変貌する。

 ドラポジを極めるとは、すなわちクルマの走行性能そのものを左右することになるのだ。



引用元:https://bestcarweb.jp/feature/column/1347040


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